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東京地方裁判所 平成6年(ワ)20624号 判決 1998年6月29日

東京都千代田区外神田四丁目七番二号

原告

株式会社佐竹製作所

右代表者代表取締役

佐竹覚

右訴訟代理人弁護士

池田昭

広島市南区皆実町四丁目一七番二八号

被告

株式会社千代田製作所

右代表者代表取締役

増井フサヱ

広島県安芸郡府中町千代一番五号

被告

株式会社チヨダエンジニアリング

右代表者代表取締役

増井フサヱ

高知県高岡郡佐川町甲一二九九番地

被告

司牡丹酒造株式会社

右代表者代表取締役

竹村功

右三名訴訟代理人弁護士

秋吉稔弘

右三名補佐人弁理士

小橋川洋二

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告株式会社千代田製作所は、別紙物件目録記載の醸造用精米機HS-二五ⅡCNC型(新型)を製造し、譲渡してはならない。

二  被告株式会社チヨダエンジニアリングは、別紙物件目録記載の醸造用精米機HS-二五ⅡCNC型(新型)を譲渡し、又は譲渡のために展示してはならない。

三  被告司牡丹酒造株式会社は、別紙物件目録記載の醸造用精米機HS-二五ⅡCNC型(新型)につき、次のような使用をしてはならない。

CRTに表示される精米パターンの「白米」(最終仕上歩留)欄に「七〇パーセントないし三五パーセント」の範囲の中で適宜の数値を入力し、縦に「1」ないし「10」までの一〇段階に区分された搗精段階については、二段階以上で一〇段階までの中から任意の段階数を決定して、この決定された各搗精段階に対応する「歩合」欄に九〇パーセントないし三五パーセントの範囲内の数値を縦に漸次減少的に入力し、更に入力したこの搗精段階毎に任意の「回転」数及び「電流」値をそれぞれ縦に入力した後、自動運転モード下において酒造原料米の精白を行う。

四  被告株式会社千代田製作所は、在庫中の別紙物件目録記載の醸造用精米機HS-二五ⅡCNC型(新型)及びその半製品(別紙物件目録記載の構造を具備しているが、精米機として完成するに至らないもの)を廃棄せよ。

五  被告株式会社千代田製作所及び被告株式会社チヨダエンジニアリングは、原告に対し、それぞれ金一二〇〇万円及びこれに対する平成六年一一月一〇日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  争いがない事実

1  原告は、次の特許権の特許権者である。

発明の名称 自動精米装置

出願日 昭和五七年一一月一八日

公告日 平成四年六月二四日(特公平四-三八四五六号)

登録日 平成六年一一月一〇日

特許番号 第一八八一九三九号

特許請求の範囲

「1 米粒を同一の精白部に複数回循環して精米する自動精米装置において、歩留設定手段と、精米過程にある米粒の重量Wを検出する重量検出手段と、精米に供される玄米の任意の重量Woを設定する重量設定手段とを備え、前記歩留設定手段、前記重量検出手段及び前記重量設定手段を、設定歩留に対する前記米粒の重量Wと前記玄米の重量Woとに基づいて精米の進行に伴う歩留の達成度合を判定する歩留達成度判定手段に連絡すると共に、歩留の達成度合に対応させて予め設定した精白部の負荷から、精米過程で判定された歩留の達成度合に合致する負荷を選出し、この選出した負荷となるように前記精白部の負荷を制御する負荷制御手段に前記歩留達成度判定手段を連絡したことを特徴とする自動精米装置。

3  米粒を同一の精白部に複数回循環して精米する自動精米装置において、歩留設定手段と、精米過程にある米粒の重量Wを検出する重量検出手段と、精米に供される玄米の任意の重量Woを設定する重量設定手段とを備え、前記歩留設定手段、前記重量検出手段及び前記重量設定手段を、設定歩留に対する前記米粒の重量Wと前記玄米の重量Woとに基づいて精米の進行に伴う歩留の達成度合を判定する歩留達成度判定手段に連絡すると共に、歩留の達成度合に対応させて予め設定した精白部の回転数から、精米過程で判定された歩留の達成度合に合致する回転数を選出し、この選出した回転数となるように前記精白部の回転数を制御する回転数制御手段に前記歩留達成度判定手段を連絡したことを特徴とする自動精米装置。」

(以下、特許請求の範囲1項記載の発明に係る特許権を「甲特許権」といい、その特許発明を「甲特許発明」という。また、特許請求の範囲3項記載の発明に係る特許権を「乙特許権」といい、その特許発明を「乙特許発明」という。これらの特許権を総称するときは、「本件特許権」といい、これらの特許発明を総称するときは、「本件特許発明」という。)

2(一)  甲特許発明の構成要件を分説すると、次のようになる。

A 米粒を同一の精白部に複数回循環して精米する自動精米装置において

B 歩留設定手段と、

C 精米過程にある米粒の重量Wを検出する重量検出手段と、

D 精米に供される玄米の任意の重量Woを設定する重量設定手段とを備え、

E 前記歩留設定手段、前記重量検出手段及び前記重量設定手段を、設定歩留に対する前記米粒の重量Wと前記玄米の重量Woとに基づいて精米の進行に伴う歩留の達成度合を判定する歩留達成度判定手段に連絡すると共に、

F 歩留の達成度合に対応させて予め設定した精白部の負荷から、精米過程で判定された歩留の達成度合に合致する負荷を選出し、この選出した負荷となるように前記精白部の負荷を制御する負荷制御手段に前記歩留達成度判定手段を連絡したことを

G 特徴とする自動精米装置

(二)  乙特許発明の構成要件を分説すると、次のようになる。

A 米粒を同一の精白部に複数回循環して精米する自動精米装置において

B 歩留設定手段と、

C 精米過程にある米粒の重量Wを検出する重量検出手段と、

D 精米に供される玄米の任意の重量Woを設定する重量設定手段とを備え、

E 前記歩留設定手段、前記重量検出手段及び前記重量設定手段を、設定歩留に対する前記米粒の重量Wと前記玄米の重量Woとに基づいて精米の進行に伴う歩留の達成度合を判定する歩留達成度判定手段に連絡すると共に、

F 歩留の達成度合に対応させて予め設定した精白部の回転数から、精米過程で判定された歩留の達成度合に合致する回転数を選出し、この選出した回転数となるように前記精白部の回転数を制御する回転数制御手段に前記歩留達成度判定手段を連絡したことを

G 特徴とする自動精米装置

3  本件特許発明の効果は、次のとおりである。

(一) 甲特許発明に係る装置について

歩留を設定するとともに、精米に供される玄米の任意の重量Woを重量設定手段によって設定すると、歩留達成度判定手段により設定歩留に対する米粒の重量Wと玄米の重量Woとに基づく歩留達成度合を判定することができ、したがって、精白の都度張込み米粒の重量を自由に変更して設定でき、張込み米粒の重量設定を変えても、この変更された設定条件下における歩留達成度を確実に判定することが可能で、負荷制御手段が精米の進行に伴う歩留の達成度合に対応する精白部の予め設定した負荷から歩留達成度判定手段により出力される歩留の達成度合に合致する負荷を選出するので、精白部の負荷を負荷制御手段により設定歩留に対する歩留達成度に適合した負荷となるように自動的に制御することができ、精米作業を常に適正な精白部の負荷で行うことができる。

(二) 乙特許発明に係る装置について

歩留を設定するとともに、精米に供される玄米の任意の重量Woを重量設定手段によって設定すると、歩留達成度判定手段により設定歩留に対する米粒の重量Wと玄米の重量Woとに基づく歩留達成度合を判定することができ、回転数制御手段が精米の進行に伴う歩留の達成度合に対応する精白部の予め設定した回転数から歩留達成度判定手段により出力される歩留の達成度合に合致する回転数を選出するので、精白部の回転数を回転数制御手段により設定歩留に対する歩留達成度に適合した回転数となるように自動的に制御することができ、精米作業を常に適正な精白部の回転数で行うことができる。

4  本件特許権の出願経過は、次のとおりである。

(一) 原告は、昭和五七年一一月一八日に、特許請求の範囲を次のとおりとする特許を出願した。

「1 歩留設定手段、米の重量を検出する手段、精白部に流入する米の流量を制御する手段、精白部の負荷値を制御する手段、精白部の回転数を制御する手段、及び一定時間毎に上記米の重量を検出する手段で、重量を検出し、その出力により、上記歩留設定手段で設定された設定歩留への達成度を判定する判定手段よりなり、該判定手段の出力により、上記各制御手段を作動させ、設定歩留への達成度に応じた流量、負荷値、回転数に設定することを特徴とする自動精米装置。

(2ないし5項は省略)」

(二) 原告は、昭和六三年八月一日、右出願から、特許請求の範囲を次のとおりとする特許を分割出願した。

「1 米粒を同一の精白部に複数回循環して精米を完了する循環式精米装置であって、精米過程にある米粒の重量Wを検出する重量検出手段と、精米に供される玄米の重量Woを設定する手段とを備えると共に、前記米粒の重量Wと前記玄米の重量Woとに基づいて歩留の達成度合を検出する判定手段を設け、精米の進行に伴う歩留の達成度合に対応する精白部の負荷を予め設定し、この設定した負荷から前記判定手段によって出力される歩留の達成度合に合致する負荷を選出し、この選出した負荷となるように前記精白部の負荷を制御する負荷制御手段を設けたことを特徴とする自動精米装置。

(2、3項は省略)

4  米粒を同一の精白部に複数回循環して精米を完了する循環式精米装置であって、精米過程にある米粒の重量Wを検出する重量検出手段と、精米に供される玄米の重量Woを設定する手段とを備えると共に、前記米粒の重量Wと前記玄米の重量Woとに基づいて歩留の達成度合を検出する判定手段を設け、精米の進行に伴う歩留の達成度合に対応する精白部の回転数を予め設定し、この設定した回転数から前記判定手段によって出力される歩留の達成度合に合致する回転数を選出し、この選出した回転数となるように前記精白部の回転数を制御する回転数制御手段を設けたことを特徴とする自動精米装置。

(5項は省略)」

右出願において、発明の効果は、次のように記載されていた。

「 (右特許請求の範囲第1項記載の装置は、)歩留の達成度合を判定する判定手段により、精白部の負荷が制御でき、人為的に歩留の計測を行って負荷を制御する必要がなく、(右特許請求の範囲第4項記載の装置は、)歩留の達成度合を判定する判定手段により、精白部にある精米ロール軸の回転数が制御でき、人為的に歩留の計測を行って精米ロールの回転数を制御する必要がなく、自動的に精米できるから、精米作業の省力化ができる。」

(三) 特許庁審査官は、原告に対し、右(二)の出願について、平成二年二月二八日付け起案に係る拒絶理由通知書を送付した。その理由は、「重量に基づいて歩留の達成度合を検知し、それに対応して精白部の負荷、転子の回転数を制御するのは、特公昭三九-二八五一六号公報及び特公昭五一-三六六七号公報に示されている。また、歩留の達成度(搗精度)毎に搗精度を設定するのも、特開昭五七-九一七四九号公報に記載されている。両者を組み合わせるのは容易である。」というものであった。そして、同年八月、右出願について拒絶査定がされた。

(四) 原告は、右拒絶査定に対する不服審判を請求し、平成二年一〇月二五日付けの補正書によって、右(二)の出願に係る特許請求の範囲を次のとおり補正した。

「1 米粒を同一の精白部に複数回循環して精米する自動精米装置において、精米過程にある米粒の重量Wを検出する重量検出手段と、精米に供される玄米の任意の重量Woを設定する設定手段とを備え、前記重量検出手段及び前記設定手段を、前記米粒の重量Wと前記玄米の重量Woとに基づいて精米の進行に伴う歩留の達成度合を判定する歩留達成度判定手段に連絡すると共に、歩留の達成度合に対応させて予め設定した精白部の負荷から、精米過程で判定された歩留の達成度合に合致する負荷を選出し、この選出した負荷となるように前記精白部の負荷を制御する負荷制御手段に前記歩留達成度判定手段を連絡したことを特徴とする自動精米装置。

(2、3項は省略)

4  米粒を同一の精白部に複数回循環して精米する自動精米装置において、精米過程にある米粒の重量Wを検出する重量検出手段と、精米に供される玄米の任意の重量Woを設定する設定手段とを備え、前記重量検出手段及び前記設定手段を、前記米粒の重量Wと前記玄米の重量Woとに基づいて精米の進行に伴う歩留の達成度合を判定する歩留達成度判定手段に連絡すると共に、歩留の達成度合に対応させて予め設定した精白部の回転数から、精米過程で判定された歩留の達成度合に合致する回転数を選出し、この選出した回転数となるように前記精白部の回転数を制御する回転数制御手段に前記歩留達成度判定手段を連絡したことを特徴とする自動精米装置。

(5項は省略)」

また、原告は、右の各発明の効果を次のとおり補正した。

「 (右特許請求の範囲第1項記載の装置によれば、)精米に供される玄米の任意の重量Woを設定手段により設定すると、歩留達成度判定手段にょり米粒の重量Wと玄米の重量Woとに基づいて歩留達成度合を判定することができ、したがって、精白の都度張込み米粒の重量を自由に変更して設定でき、張込み米粒の重量設定を変えても、この変更された設定条件下における歩留達成度を確実に判定することが可能で、負荷制御手段が精米の進行に伴う歩留の達成度合に対応する精白部の予め設定した負荷から歩留達成度判定手段により出力される歩留の達成度合に合致する負荷を選出するので、精白部の負荷を負荷制御手段によりこの選出した負荷となるように自動的に制御することができ、精米作業を常に適正な精白部の負荷で行うことができる。

(右特許請求の範囲第4項記載の装置によれば、)精米に供される玄米の任意の重量Woを設定手段によって設定すると、歩留達成度判定手段により米粒の重量Wと玄米の重量Woとに基づいて歩留達成度合を判定することができ、回転数制御手段が精米の進行に伴う歩留の達成度合に対応する精白部の予め設定した回転数から歩留達成度判定手段により出力される歩留の達成度合に合致する回転数を選出するので、精白部の回転数を回転数制御手段によりこの選出した回転数となるように自動的に制御することができ、精米作業を常に適正な精白部の回転数で行うことができる。」

(五) 原告は、平成二年一〇月二五日付けの審判請求理由補充書において、次のとおり主張した。

「 特公昭三九-二八五一六号公報に記載されている精米機は、精米に供される米粒の重量が自由に設定変更できないものであって、常に一定の重量又は容積の米粒を張り込まないと、穀数量計測装置による精白度の測定ができないものであり、精米に供される米粒の重量の変更に対応させて精米中の負荷や回転数を適正に制御することができないものである。また、特公昭五一-三六六七号公報に記載されている搗精機も同様のものである。これに対し、本件発明は、精米に供される玄米の任意の重量Woを設定手段により設定すると、歩留達成度判定手段により米粒の重量Wと玄米の重量Woとに基づいて歩留達成度合を判定することができ、したがって、精白の都度、張込み米粒の重量を自由に変更して設定でき、張込み米粒の重量設定を変えても、この変更された設定条件下における歩留達成度を確実に判定することが可能である。」

(六) 右(二)の出願に係る特許は、平成四年六月二四日、公告がされ、その後、林福治から特許異議の申立てがあった。原告は、その異議答弁書(第二回)において、次のとおり主張した。

「 特公昭三九-二八五一六号公報に記載されている精米機は、精米作業の途中において歩留の減少度合に対応させて精米の諸制御値の変更を行うものであるが、その変更の時機は、「設定歩留」とか「設定歩留への達成度」とは無関係に「絶対的歩留」の減少度合のみによって決定される。仮に「設定歩留」の値が変更されたとしても、その変更された値は精米を終了させる時機を変更するのみであって、その値の変更とは関係なく、歩留がある一定の値まで減少する都度精米の諸制御値が変更されるのである。」

(七) 原告は、平成五年四月三〇日付けの補正書によって、右(二)の出願に係る特許の明細書を補正し、特許請求の範囲は、右1記載のとおりとなり、効果の記載も、右3記載のとおりとなった。

(八) 特許庁審判官は、平成六年六月三〇日付けで、林福治からの右特許異議の申立てを理由がないものと決定した。

(九) 本件特許発明は、平成六年一一月一〇日、登録された。

5  被告株式会社千代田製作所(以下「被告千代田」という。)は、別紙物件目録記載の醸造用精米機HS-二五ⅡCNC型(旧型)を製造し、これを被告株式会社チヨダエンジニアリング(以下「被告チヨダ」という。)が販売していた。

被告千代田は、別紙物件目録記載の醸造用精米機HS-二五ⅡCNC型(新型)を製造し、これを被告チヨダが販売している。被告司牡丹酒造株式会社(以下「被告司牡丹」という。)は、別紙物件目録記載の醸造用精米機HS-二五ⅡCNC型(新型)を使用している。その使用方法は、前記第一の三の「記」以下に記載のとおりである。

(以下、別紙物件目録記載の醸造用精米機HS-二五ⅡCNC型の旧型と新型を総称して、「被告製品」といい、旧型を「被告製品旧型」、新型を「被告製品新型」という。)

二  本件は、原告が、被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属するとして、本件特許権に基づき、被告千代田に対し、被告製品新型を製造し、譲渡することの差止め並びに被告製品新型及びその半製品を廃棄すること、被告チヨダに対し、被告製品新型を譲渡し、譲渡のために展示することの差止め、被告司牡丹に対し、被告製品新型を使用することの差止めを求めるとともに、被告千代田及び被告チヨダに対して、被告製品旧型を製造販売したことによる不法行為に基づく損害賠償請求として、それぞれ一二〇〇万円及びこれに対する平成六年一一月一〇日から支払済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

三  被告製品が本件特許発明の技術的範囲に属するかどうかについては、構成要件C、D、E、Fについて争いがあり、各構成要件該当性についての当事者の主張は次のとおりである。なお、以下の主張は、特に明示しない限り、甲特許発明、乙特許発明に共通である。

1  構成要件Cについて

(一) 原告

被告製品においては、ロードセル装置Eによって精米タンク2及び供給ホッパー1に収容されている米粒の重量を測定し、他の部分にある米粒の重量を加味して全体の重量を補正して、精米過程にある米粒の重量を検出しているから、「精米過程にある米粒の重量Wを検出する重量検出手段」を備えている。

本件特許の出願時において、米を精米タンクに回収することなく、米粒全体の重量を検出する技術は公知であったから、右「重量検出手段」は、米を一旦精米タンクに回収して重量を測定するものに限られない。

(二) 被告ら

「精米過程にある米粒の重量Wを検出する重量検出手段」は、循環する米を一旦すべて精米タンクに回収して重量を検出する手段と解するべきである。なぜならば、本件特許の明細書に実施例として記載されている装置は、セット時間になると米を精米タンクに回収して米の重量を測定するものであり、右明細書にそれ以外の説明はない上、本件特許の出願時における米粒を同一の精白部に複数回循環して精米する自動精米装置の歩留測定は、循環する米を一旦すべて精米タンクに回収して重量を測定するという方法によっていたからである。

被告装置においては、米を精米タンクに回収することなく、循環させたままで精米過程にある米粒の重量を検出するから、構成要件Cを充足しない。

2  構成要件Dについて

(一) 原告

従来の自動精米装置では、常に一定の重量又は容積の米粒を張り込まないと、精白度の測定ができなかったところ、本件特許発明は、精米に供される玄米の量が変化しても、それに対応して、正確な歩留達成度合を判定することができる装置に関するものであるから、「精米に供される玄米の任意の重量Woを設定する重量設定手段」は、精米作業の度毎に精米に供される玄米の重量が一定でなくとも、その重量を、歩留達成度合を判定する基準値として、装置が取り込むことを意味しているのであって、それには、玄米を装置に供給する前に予めユーザーによって重量が設定されるもの及び精米作業の都度玄米の重量を実測してその実測した玄米の重量を装置が取り込むものの双方が含まれるというべきである。このことは、右一4の出願経過、「精米に供される玄米」という構成要件Dの文言が「供給予定の玄米」と「供給された玄米」との双方を含んでいること、発明の効果の「張込み米粒」という文言が「張込み予定の米粒」と「既に張り込まれた米粒」の双方を含んでいること及び本件特許の出願当時、精米作業の都度玄米の重量を実測してその実測した玄米の重量を装置が取り込む技術が公知であったことから明らかである。

確かに、本件特許の「発明の詳細な説明」に記載されている実施例においては、精米タンクに供給された玄米の重量を検出し、その値が予め設定された張込重量Woに達したときには、玄米の搬送を停止するという機構を備えた自動精米装置が掲げられているが、これは、実施例にすぎない。そして、「精米に供される玄米の任意の重量Woを設定する重量設定手段」を、ユーザーが玄米の重量を予め設定する手段を意味すると解すると、右の実施例の機構をも、本件特許発明の構成要件としなければならないが、本件特許発明には、そのような構成要件は存しない。

なお、右一4(一)の出願(以下「親出願」という。)に係る発明は、精米に供される玄米の任意の重量を設定することを前提としており、歩留の達成度合に応じて、精白部への米の流量、精白部の負荷、精白部の回転数の三要素を制御するものであったのに対し、本件特許発明は、右重量設定手段を構成要件とするが、甲特許発明は、負荷のみ、乙特許発明は、回転数のみを制御するものであるので、親出願に係る発明とは異なっており、右重量設定手段が、精米作業の都度玄米の重量を実測してその実測した玄米の重量を装置が取り込む手段を意味すると解しても、本件特許発明は、分割出願前の右発明とは同じ発明とならない。

被告製品は、ロードセル装置Eを有するとともに、「シーケンサーとコンピュータとを電気的に結線して設け、シーケンサーにロードセル装置Eを電気的に結線する」という構成を有しており、「精米タンク2及び供給ホッパー1に原料の米粒である玄米を投入し、その重量をロードセル装置Eで検出し、その重量値を操作盤Fに設けたコンピュータの記憶回路に設定する」のであるから、精米作業の都度玄米の重量を実測してその実測した玄米の重量を装置が取り込む手段を備えている。

したがって、被告製品は、構成要件Dを充足している。

(二) 被告ら

「精米に供される玄米の任意の重量Woを設定する重量設定手段」は、ユーザーが、玄米の重量を自由に設定する手段を意味するのであり、ユーザーが、重量設定後、自ら設定した重量となるように玄米を精米タンクに搬入することを前提としている。なぜならば、右一4の出願経過から明らかなように、原告は、平成二年一〇月二五日付けの補正書によって、特許請求の範囲の「精米に供される玄米の重量Woを設定する手段」の「重量」の前に「任意の」を追加した上、「精白の都度張込み米粒の重量を自由に変更して設定できる」という効果を追加したのであり、本件特許の明細書のどこにも、右重量設定手段が精米作業の都度玄米の重量を実測してその実測した玄米の重量を装置が取り込む手段を意味する旨の記載はないからである。

親出願においては、精米に供される玄米の重量を設定する手段は、特許請求の範囲に含まれておらず、米の重量を検出する手段のみが、特許請求の範囲に含まれていた。そうすると、「精米に供される玄米の任意の重量Woを設定する重量設定手段」が、精米作業の都度玄米の重量を実測してその実測した玄米の重量を装置が取り込む手段を意味するとすると、本件特許発明は、分割出願前の右発明と同じ発明ということになってしまう。また、親出願における明細書の記載からすると、構成要件Dの「精米に供される玄米」という文言や発明の効果の「張込み米粒」という文言は、「供給予定の玄米」と解するほかない。

被告製品は、ユーザーが玄米の重量を自由に設定する手段を備えていないから、構成要件Dを充足しない。

3  構成要件Eについて

(一) 原告

被告製品は、シーケンサーを介してロードセル装置Eと電気的に結線されたコンピュータを有し、このコンピュータによって、最終仕上歩留が設定されるとともに、精米過程中の米粒の重量が「精米機内のその他の場所にある米粒の重量を加味すべく、当初供給された玄米の量に基づいて設定されている係数で補正重量値として補正され、この補正重量値と当初設定された玄米の重量値とから、その時々の精米歩合が算出され」、それに応じて、後記4(一)のとおり、精白部の負荷や回転数が制御されるものである。

本件特許発明の「歩留の達成度合」とは、単に精米の進行度合を意味するもので、計算方法といった細部については、当業者が任意に選択すべきものである。被告製品において、時々の精米歩合は、精米の進行度合を示すものであり、これを算出して精白部の負荷や回転数が制御されるのであるから、被告製品は、本件特許発明の構成要件Eにいう「歩留の達成度合を判定する歩留達成度判定手段」を備えている。また、被告製品において、時々の精米歩合に対応した負荷や回転数の値は、最終仕上歩留との関係において決定されているから、被告製品においては、歩留が目標値にどの程度近づいたかということによって、精米部の負荷や精米ロールの回転数を制御している。したがって、この点からしても、被告製品は、本件特許発明の構成要件Eにいう「歩留の達成度合を判定する歩留達成度判定手段」を備えている。

そして、被告製品が本件特許発明の構成要件Eの他の構成を備えていることは、右に述べたところから明らかであるから、被告製品は、構成要件Eを充足する。

(二) 被告ら

本件特許発明において「歩留達成度判定手段」によって判定されるのは、歩留が目標値にどの程度近づいたかということであり、このことは、右一4の出願経過からも明らかである。

被告製品においては、精米の絶対的な割合を測定し、それに基づいて精米部の負荷や回転数を制御しているが、それが目標値にどの程度近づいたかということを測定して、精米部の負荷や回転数を制御していない。

したがって、被告製品は、「歩留達成度判定手段」を有しないから、構成要件Eを充足しない。

4  構成要件Fについて

(一) 原告

(1) 甲特許発明

被告製品が「シーケンサーとコンピュータとを電気的に結線して設け、シーケンサーに…負荷制御装置C、…及びロードセル装置Eを電気的に結線する。…コンピュータにテンキー32、設定モードボタン33、運転モードボタン34、CRT35等を結線し、これらスイッチ類31及びテンキー32等を操作盤Fの盤面に配置する」といった構成を有するとともに、「負荷制御装置C」として「精白部Aの排出口12に排出樋18を接続し、その内側に、排出口12に対面する圧迫板19を開閉自在に装着し、圧迫板19を回動自在の回軸20に吊設する。回軸20の一側端部は、…自動分銅機構21の取付具本体37に固定」するといった構成を有することによって、「操作盤FにおいてCRT35を監視しながらテンキー32を適宜操作して、ユーザーが予め複数作成して記憶させた精米パターンの中から所望のパターンを選出すると共に、右精米パターン中の…電流欄の1乃至10については、原則として、ユーザーが先ず白米(最終仕上歩留)欄の数値を決定して、この数値、精米の進行度合、精米する米の性質その他の諸条件を考慮して…値を入力」すれば、自動運転を開始して、ならし運転終了後、負荷制御装置Cの圧迫板19の開度は、主電動機27の電流値が設定したアンペアとなるように自動分銅機構21で調節され、精米作業が進行すると、右3(一)の算出された精米歩合に応じて、主電動機27の電流値が、精米パターンに設定されたように制御されるのであるから、被告製品は、甲特許発明の構成要件Fを充足する。

(2) 乙特許発明

被告製品が「シーケンサーとコンピュータとを電気的に結線して設け、シーケンサーに…駆動装置D、…及びロードセル装置Eを電気的に結線する。…コンピュータにテンキー32、設定モードボタン33、運転モードボタン34、CRT35等を結線し、これらスイッチ類31及びテンキー32等を操作盤Fの盤面に配置する」といった構成を有するとともに、「駆動装置D」として「インバータに電気的に結線した主電動機27の躯動軸28に駆動プーリ29を取り付け、これと精白部Aの主軸6に取り付けた従動プーリ10とに伝導ベルト30を掛け渡す」といった構成を有することによって、「操作盤FにおいてCRT35を監視しながらテンキー32を適宜操作して、ユーザーが予め複数作成して記憶させた精米パターンの中から所望のパターンを選出すると共に、右精米パターン中の…回転欄の1乃至10については、原則として、ユーザーが先ず白米(最終仕上歩留)欄の数値を決定して、この数値、精米の進行度合、精米する米の性質その他の諸条件を考慮して…値を入力」すれば、自動運転を開始して、ならし運転終了後、精米ロール7の回転数は、設定した回転数となるように、インバータで主電動機27の回転数を調節することによって制御され、精米作業が進行すると、右3(一)の算出された精米歩合に応じて、精米ロール7の回転数が、精米パターンに設定されたように制御されるのであるから、被告製品は、乙特許発明の構成要件Fを充足する。

(二) 被告ら

被告製品においては、右3(二)のとおり、歩留の達成度合に基づいて精白部の負荷や回転数を制御することはないから、構成要件Fを充足しない。

四  損害についての当事者の主張は、次のとおりである。

1  原告

被告千代田は、本件特許発明の公告日である平成四年六月二四日から平成六年一二月までの間に被告製品旧型を四〇台製造し、これを一括して被告チヨダに販売し、被告チヨダは、これを酒造業者等に販売した。

被告千代田が被告製品旧型の製造販売によって得た利益の額は、一台当たり一五〇万円であり、被告製品旧型における本件特許発明の寄与率は、甲特許発明、乙特許発明それぞれについて各一〇パーセントであるので、被告千代田が本件特許権の侵害によって得た利益の額は、一五〇万円に四〇と〇・一と二を乗じた一二〇〇万円となる。

被告チヨダが被告製品旧型の販売によって得た利益の額は、一台当たり一五〇万円であり、被告製品旧型における本件特許発明の寄与率は、右のとおりであるので、被告チヨダが本件特許権の侵害によって得た利益の額は、一五〇万円に四〇と〇・一と二を乗じた一二〇〇万円となる。

2  被告ら

原告の右主張を争う。

第三  当裁判所の判断

以下では、甲特許発明及び乙特許発明について、共通して判断する。

一  構成要件D該当性について

1  構成要件Dは、「精米に供される玄米の任意の重量Woを設定する重量設定手段」というものであるが、この文言において、「設定する」主体は、ユーザーであると解され、そのユーザーが「任意の」重量を設定するのであるから、右「重量設定手段」は、ユーザーが、その意思によって選択した玄米の重量を入力設定する手段と解することができる。その理由は以下のとおりである。

(一) 構成要件Bの歩留設定手段は、ユーザーが、その選択した歩留を入力設定する手段と解することができるところ、構成要件Dの「重量設定手段」についても、同じ「設定手段」という用語が用いられているのであるから、右のように同様の意味に解するのが相当である。

また、甲特許発明は、「歩留を設定するとともに、精米に供される玄米の任意の重量Woを重量設定手段によって設定すると」「精白の都度張込み米粒の重量を自由に変更して設定でき、張込み米粒の重量設定を変えても、この変更された設定条件下における歩留達成度を確実に判定することが可能である」という効果を有するが、右の効果、特に「張込み米粒の重量を自由に変更して設定でき」という部分は、ユーザーが張込み米粒の重量を自由に変更して設定できるという意味であると解される。本件特許の明細書(甲二)の乙特許発明の効果には、「精白の都度張込み米粒の重量を自由に変更して設定でき、張込み米粒の重量設定を変えても、この変更された設定条件下における歩留達成度を確実に判定することが可能である」との記載はないが、甲特許発明と乙特許発明とは精白部の「負荷」と「回転数」とが異なるのみで、その他の構成が同一であるから、乙特許発明の効果も、「精白の都度張込み米粒の重量を自由に変更して設定でき、張込み米粒の重量設定を変えても、この変更された設定条件下における歩留達成度を確実に判定することが可能である」ことが当然含まれるものと解される。

したがって、本件特許発明の効果についての右解釈からしても、構成要件Dの「重量設定手段」は右認定のように解すべきであるということができる。

(二) 本件特許の明細書(甲二)によると、本件特許発明の実施例には、「歩留設定手段1によって、精米に供される玄米の重量Woを設定すると共に、精米を完了させるべき米粒の歩留、即ち得ようとする精白米の歩留を設定し、」(甲二の一〇頁三行以下)、「まず、歩留A、米粒の重量Wを歩留設定手段1によりそれぞれ希望する値(Ao、Wo)に設定する。」(甲二の一五頁一九行以下)、「スタートスイッチSWをONすると、モータM0、M1は回転し、玄米はコンベア20で玄米張込部19に張込まれ、玄米が昇降機13によりシャッタ14が閉じている吊タンク11内に搬送される。ロードセル等の重量検出手段S1で玄米の重量が設定した重量になったことを検知すると、モータM0は停止し、シャッタ14が開放される。」(甲二の一六頁九行以下)と記載されているから、実施例において、精米に供される玄米の重量は、ユーザーが、希望する値を入力設定するものとされている(なお、右の前者の記載について、被告らは、実施例ではなく、本件特許発明の構成要件についての説明を記載したものであると主張するが、右記載は、実施例であると明示されているので、実施例の記載と認める。)。

(三) 前記第二の一4の出願経過によると、構成要件Dの「重量設定手段」は、親出願では、特許請求の範囲に含まれていなかったところ、分割出願において特許請求の範囲に加えられたものである。しかし、親出願の明細書(甲一二)には、「まず、歩留A、玄米重量Wを設定値(Ao、Wo)にセットし、スタートスイッチSWをONすると、モータM0、M1は回転し、玄米はコンベア20で玄米張込み部19に張込まれ、昇降機13によりシャッタ14が閉じている吊タンク11内に搬送される。ロードセル等の重量検知手段S1で玄米の重量が設定重量になったことを検知すると、モータM0は停止し、シャッタ14が開放される。」(甲一二の八頁六行以下)、「以上述べたように、本発明の自動精米装置では、管理者は、歩留及び精米する米の重量等をセットするのみでよく、」(甲一二の一三頁八行以下)と記載されていた。このように、親出願では「重量設定手段」が含まれていたため、本件特許発明は、分割出願によって、特許されたものと認められる。

このことは、証拠(乙五)によると、特許庁審判官が、林福治からの特許異議の申立てを理由がないものと決定した理由の中で、親出願には「重量設定手段」の記載がないとの異議申立ての理由に対し、親出願の明細書(甲一二)の「まず、歩留A、玄米重量Wを設定値(Ao、Wo)にセットし、」という記載を引用して、親出願に「重量設定手段」が含まれていた旨の判断をしていると認められることからも明らかである。

そして、親出願の明細書における「重量設定手段」の記載は、ユーザーが精米すべき玄米の重量を設定するというものである。

以上の出願経過からしても、構成要件Dの「重量設定手段」は、ユーザーが、その意思によって選択した玄米の重量を入力設定する手段であると解するほかない。

2  したがって、構成要件Dの「重量設定手段」は、ユーザーが、その意思によって選択した玄米の重量を入力設定する手段と解することができる。そして、右「重量設定手段」は、「歩留達成度判定手段」に連絡される(構成要件E)のであるから、その設定された重量は、歩留達成度の判定に用いられるものである。

3  被告製品は、ロードセル装置Eを有するとともに、「シーケンサーとコンピュータとを電気的に結線して設け、シーケンサーにロードセル装置Eを電気的に結線する」という構成を有しており、「精米タンク2及び供給ホッパー1に原料の米粒である玄米を投入し、その重量をロードセル装置Eで検出し、その重量値を操作盤Fに設けたコンピュータの記憶回路に設定」し、そのコンピュータの記憶回路に設定された値に基づいて精米歩合を算出するものである。

このように、被告製品においては、玄米の重量は、ロードセル装置で検出され、それが自動的にコンピュータの記憶回路に記憶されるのであるから、仮に右精米歩合の算出が歩留達成度の判定ということができたとしても(後述のとおり、そうとは認められない。)、ユーザーが、その意思によって選択した玄米の重量を機械に入力設定し、それが歩留達成度の判定に用いられているとは認められない。

4  なお、原告は、右「重量設定手段」を右認定のように解すると、前記1(二)の実施例のような、精米タンクに供給された玄米の重量を検出し、その値が予め設定された張込重量に達したときには、玄米の搬送を停止するという機構を本件特許発明の構成要件としなければならないと主張するが、右「重量設定手段」を右認定のように解したからといって、右実施例のような機構を構成要件としなければならない必然性はない。また、原告は、本件特許の出願当時、精米作業の都度玄米の重量を実測してその実測した玄米の重量を装置が取り込む技術が公知であったとも主張するが、たとえそうであったとしても、右「重量設定手段」を右認定のように解することの妨げとなるものではない。

5  よって、被告製品が構成要件Dを充足するとは認められない。

二  構成要件E、F該当性について

1  構成要件Eの「設定歩留に対する前記米粒の重量Wと前記玄米の重量Woとに基づいて精米の進行に伴う歩留の達成度合を判定する歩留達成度判定手段」は、それによって判定された達成度合によって、精白部の負荷や回転数が制御されるものである(構成要件F)が、右「前記米粒の重量Wと前記玄米の重量Wo」によって得られる値は、その時点における歩留を意味しており、それの設定歩留に対する達成度合を判定するのが右「歩留達成度判定手段」であるから、右「歩留達成度判定手段」は、目標値である設定歩留とその時点における歩留とを比較して、目標値にどの程度近づいたかを判定するものということができる。

前記第二の一4(六)のとおり、原告は、林福治から特許異議の申立てに対する異議答弁書において、「特公昭三九-二八五一六号公報に記載されている精米機は、精米作業の途中において歩留の減少度合に対応させて精米の諸制御値の変更を行うものであるが、その変更の時機は、「設定歩留」とか「設定歩留への達成度」とは無関係に「絶対的歩留」の減少度合のみによって決定される。」と主張したのであるが、その趣旨は、本件特許発明では、目標値である設定歩留に各時点における歩留がどの程度近づいたかを判定して、精白部の負荷や回転数を制御しているのに対し、特公昭三九-二八五一六号公報に記載されている精米機は、各時点の絶対的な歩留のみによって制御しているから、本件特許発明に係る精米装置は、特公昭三九-二八五一六号公報に記載されている精米機とは異なるものであるというものであると解される。

したがって、右「歩留達成度判定手段」は、目標値である設定歩留と各時点における歩留とを比較して、目標値にどの程度近づいたかを判定するものであり、単に各時点における歩留(絶対的歩留)を判定する手段は、右「歩留達成度判定手段」には当たらないというべきである。

2  しかるところ、被告製品においては、算出された精米歩合に応じて、精白部の負荷や回転数が、あらかじめコンピユータに記憶された精米パターンに設定されたように制御されるのであるが、その精米歩合は、各時点における精米過程中の米粒の重量と最初に検出されコンピュータに記憶された玄米の重量によって求められる歩留(絶対的歩留)である。

また、証拠(乙一二)によると、被告製品において、運転中に、最終の目標値である設定歩留を変更しても、精白部の負荷や回転数を決定する精白パターンは変化せず、したがって、設定歩留に至る各精米歩合における精白部の負荷や回転数は変化しないものと認められる。このことは、被告製品において、精白部の負荷や回転数は、右絶対的歩留によって決まる精白パターンにより制御されており、目標値である設定歩留に歩留がどの程度近づいたかによって精白部の負荷や回転数を制御しているものではないことを示している。

したがって、被告製品が、目標値である設定歩留と各時点における歩留とを比較して、目標値にどの程度近づいたかを判定し、その結果に基づいて精白部の負荷や回転数を制御しているとは認められないから、被告製品は、右「歩留達成度判定手段」を備えておらず、構成要件Eを充足しない。また、そうである以上、構成要件Fも充足しない。

3  なお、証拠(甲三〇)によると、被告製品は、最終の目標値である設定歩留と精白過程の各時点における歩留とを比較し、その差が〇・二パーセント未満であれば、モータを停止し、〇・二パーセント以上であれば、精米を続行するという構成を有していることが認められるが、最終の目標値である設定歩留と各時点における歩留とを比較した結果決められるのは、モータを停止するかどうかということだけであって、精白部の負荷や回転数を制御しているとは認められないから、右判定を行っているからといって、被告製品が、右「歩留達成度判定手段」を備えているということはできない。

三  よって、原告の請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 中平健)

別紙 物件目録

醸造用精米機HS-二五ⅡCNC型

(新型と旧型があり、その構造の差は、負荷制御装置のみである。)

一、図面の説明

第1図は正面図。

第2図は右側面図。

第3図は内部構造の一部断面側面図。

第4a図は旧型の負荷制御装置Cの全体を示す一部断面斜視図。

第4b図は新型の負荷制御装置Cの全体を示す一部断面斜視図。

第5図は操作盤Fの正面図。

第6図は精米作業のフローを示す説明図。

第7図はCRTに表示される精米パターンの一例を示す説明図。

二、符号の説明

A…精白部 B…供給バルブ装置 C…負荷制御装置

D…駆動装置 E…ロードセル装置 F…操作盤

1…供給ホッパー 2…精米タンク 3…荷重センサー

4…万石撰別機 5…円筒 6…主軸

7…精白ロール 8…フレンチ 9…ナット

10…従動プーリ 11…精白室 12…排出口

13…整流ガイド 14…供給バルブ 15…軸

16…調節杆 17…エアシリンダー 18…排出樋

19…圧迫板 20…軸 21…自動分銅機構

22…正逆回転電動機 23…透明ケース 24…案内杆

25…分銅 26…螺軸 27…主電動機

28…駆動軸 29…駆動プーリ 30…伝導ベルト

31…スイッチ類 32…テンキー 33…設定モードボタン

34…運転モードボタン 35…CRT 36…昇降機

37…取付具本体 38…減速機 39…調節用ウエイト

40…回軸固定金具 41…軸受板 42…重り

43…切欠部

三、構造の説明

<1> (全体の構成)

被告製品は機械的構成部分と電気的構成部分とからなる。

機械的構成部分は、中央に配した精白部Aに対して、供給バルブ装置Bを上方に、負荷制御装置Cを前方に、駆動装置Dを側方に、それぞれ配し、供給バルブ装置Bの上方には、ロードセル装置Eの荷重センサー3を介して供給ホッパー1を載置する。供給ホッパー1の上部には、これと一体的に精米タンク2を搭載し、精白部Aの下方に設けた万石撰別機4と精米タンク2の上部とを昇降機36で連絡し、循環工程を形成する。

電気的構成部分は、シーケンサーとコンピュータとを操作盤Fに適宜接続して設け、これらを互いに電気的に結線すると共に、シーケンサーと前記機械的構成部分の各装置とを電気的に結線する。

<2> (精白部A)

円筒5の内部からその下方に主軸6を突出させて設ける。円筒5の内部に位置する主軸6には、円筒5の内周面に対し間隔をおいて、精白ロール7、フレンチ8を上方より装着し、これらをナット9で主軸6に固定する。主軸6の下端には従動プーリ10を取り付ける。円筒5の内周面と精白ロール7の外周面との間に形成された前記間隔部分を精白室11とする。精白室11の下部は円筒5に排出口12を開口して外部に連通する。

<3> (供給バルブ装置B)

供給ホッパー1の内部下方に、上部が円錐状で下部が円筒状の整流ガイド13を設け、整流ガイド13の下部に供給バルブ14を上下動自在に装着する。中間部を軸15によって回動自在に支持した調節杆16の一端に供給バルブ14を接続すると共に、調節杆16の他端をエアシリンダー17の可動部材端部に接続する。

<4> (負荷制御装置C)

イ、旧型

精白部Aの排出口12に排出樋18を接続し、その内側に、排出口12に対面する圧迫板19を開閉自在に装着し、圧迫板19を回動自在の回軸20に吊設する。回軸20の一側端部は、L字状に屈折され、取付具本体37と平行に正逆回転電動機22の方向に延び、その途中部分が回軸固定金具40によって自動分銅機構21の取付具本体37に固定されている。回軸20の屈折部分は、その最終端部が開放されており、この最終端部と回軸固定金具40との間に調節用ウエイト39が摺動自在に設けられている。自動分銅機構21は、取付具本体37の一側部に減速機38を介して正逆回転電動機22を装着し、正逆回転電動機22の回転軸を減速機38に接続し、減速機38の出力軸を螺軸26の一端に連結している。螺軸26には分銅25を移動自在に螺合すると共に、この分銅25の移動を案内する案内杆24を螺軸26に平行に設け、螺軸26と案内杆24とをそれらの端部において軸受板41によって支持し、これら分銅25、螺軸26、案内杆24及び軸受板41を円筒状の透明ケース23をもって覆い、この透明ケース23の一端を取付具本体37に固定する。

ロ、新型

精白部Aの排出口12に排出樋18を接続し、その内側に、排出口12に対面する圧迫板19を開閉自在に装着し、圧迫板19を回転自在の回軸20に吊設する。回軸20の一側端部は、L字状に屈折され、取付具本体37と平行に正逆回転電動機22の方向に延び、その途中部分が回軸固定金具40によって自動分銅機構21の取付具本体37に固定されている。回軸20の屈折部分は、その最終端部が開放されており、この最終端部と回軸固定金具40との間に調節用ウエイト39が摺動自在に設けられている。自動分銅機構21は、取付具本体37の一側部に減速機38を介して正逆回転電動機22を装着し、正逆回転電動機22の回転軸を減速機38に接続し、減速機38の出力軸を螺軸26の一端に連結している。螺軸26には分銅25を移動自在に螺合すると共に、その他端を軸受板41によって支持し、取付具本体37と軸受板41との間を防塵用の透明ケース23によって覆う。

分銅25はその上側部を切り取って切欠部43を形成し、螺軸26を挟んで切欠部43の反対側に二個の鉛の重り42を埋め込んでいる。

<5> (駆動装置D)

インバータ(図示せず)に電気的に結線した主電動機27の駆動軸28に駆動プーリ29を取り付け、これと精白部Aの主軸6に取り付けた従動プーリ10とに伝導ベルト30を掛け渡す。

<6> (ロードセル装置E)

横方向に位置を規制し、縦方向に移動可能とした供給ホッパー1を、機械本体に対して水平方向の三ヵ所に配分して設けた荷重センサー3によって支持し、これらの荷重センサー3はそれぞれロードセルアンプ(図示せず)に接続する。

<7>(操作盤F)

シーケンサー(図示せず)とコンピュータとを電気的に結線して設け、シーケンサーに供給バルブ装置B、負荷制御装置C、駆動装置D及びロードセル装置Eを電気的に結線する。又、シーケンサーにスイッチ類31を結線すると共に、コンピュータにテンキー32、設定モードボタン33、運転モードボタン34、CRT35等を結線し、これらスイッチ類31及びテンキー32等を操作盤Fの盤面に配置する。

四、作用の説明

<1> 操作盤Fにおいて、CRT35を監視しながらテンキー32を適宜操作して、ユーザーが予め復数作成して記憶させた精米パターンの中から所望のパターンを選出すると共に、右精米パターン中の白米(最終仕上歩留)欄、歩合(%)欄、回転欄及び電流欄の1乃至10については、原則として、ユーザーが先ず白米(最終仕上歩留)欄の数値を決定して、この数値、精米の進行度合、精米する米の性質その他の諸条件を考慮して、その余の各欄の値を入力する。

このようにして、第7図に一例として示した精米パターンを作成する。

<2> 第7図に一例として示した精米パターンは、七段階よりなり、米粒の精白歩合(精米歩留)が一〇〇~九〇%の時には、精白部Aの精白ロール7の回転数を毎分六三〇回転とし、精米負荷を駆動装置Dの主電動機27への電流値に基づいて五五アンペアとし、供給バルブ装置Bの供給バルブ14の開度をエアシリンダー17の可動部の位置に基づいて「4」の状態とし、又、精米作業の進行に応じて、精白歩合が九〇~八〇%、八〇~七五%、七五~七〇%、七〇~六五%、六五~六二%、六二~五八%である時には、それぞれ従前と同様に回転数、電流値、供給バルブ14の開度を表示された数値の状態として自動運転することを示す。

しかし、この精米パターンの場合は、最終の白米歩留が六〇・〇%に設定されているので、その設定歩留で運転は自動停止されることを示す。

<3> 次に、第7図の精米パターンに従って自動運転した場合の作用について説明する。

先ず、精米タンク2及び供給ホッパー1に原料の米粒である玄米を投入し、その重量をロードセル装置Eで検出し、その重量値を操作盤Fに設けたコンピュータの記憶回路に設定する。

そして、自動運転を開始すると、駆動装置Dの主電動機27が駆動され、その回転は駆動軸28、駆動プーリ29、伝導ベルト30を介し精白部Aの従動プーリ10、主軸6に順次伝えられて、精白ロール7が回転する。

ならし運転終了後、供給バルブ装置Bの供給バルブ14が設定された「4」の開度に開かれて、適量の米粒が順次精米タンク2から供給ホッパー1を経て精白部Aへ供給される。供給された米粒は、精白部Aの精白室11を経て排出口12から排出される間に、精白ロール7によって研削精米される。

そしてこの時、精白ロール7の回転数は、設定した毎分六三〇回転となるように、インバータで主電動機27の回転数を調節することによって制御され、又、負荷制御装置Cの圧迫板19の開度は、主電動機27の電流値が設定した五五アンペアとなるように、自動分銅装置21で、正逆回転電動機22を駆動して螺軸26を回転し、分銅25を螺軸26に沿って透明ケース23の内部で移動させ、軸20を中心に圧迫板19を回動させることによって調節する。

精米タンク2及び供給ホッパー1に収容されている米粒の重量は、ロードセル装置Eによって検出され、コンピュータによって、この重量値が、精米機内のその他の場所にある米粒の重量を加味すべく、当初供給された玄米の量に基づいて設定されている係数で補正重量値として補正され、この補正重量値と当初設定された玄米の重量値とから、その時々の精米歩合が算出される。

精白部Aの精白室11で精米された米粒は、排出口12から圧迫板19の圧力に抗して排出され、排出樋18を経て万石撰別機4に移送され、糠や砕米が除去され、昇降機36によって再び精米タンク2に戻され、精白部Aの精白室11で再び精米され、以後同様に循環精米される。

<4> このようにして精米作業が進行すると、やがて精白歩合が九〇%になる。すると、前述の要領で精白ロール7の回転数が毎分六〇〇回転に、主電動機27の電流値が五三アンペアにそれぞれ調節される。この場合、供給バルブ14の開度は従前と同じである。

以下同様に、精白歩合が八〇%になると、それに応じて精米ロール7の回転数、主電動機27の電流値、供給バルブ14の開度が精米パターンに設定されたように制御され、やがて最終の精米歩合である六〇%になると、供給バルブ14が閉じられて精米作業が終了する。

以上

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

第4a図

<省略>

第4b図

<省略>

第5図

<省略>

第6図

<省略>

第7図

<省略>

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